日本医科大学武蔵小杉病院 救命救急科

新型コロナウイルス感染症の病態理解と治療法検討のための多施設共同研究 (J-RECOVER)

J-RECOVER:
J
apanese multicenter REsearch  of COVID-19 
by assEmbling Real-world data

1:研究の背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年末に中国湖北省の都市・武漢で、肺炎の集団感染として最初に報告され、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)がその原因であることが確認されました[1, 2]。本邦でも、2020年1月に最初の新型コロナウイルス感染症症例が報告されて以降、2月以降急激に報告数の増加をみとめました[3]。その後、2020年3月には世界的なパンデミックを引き起こしております[4, 5]。感染者数は世界で2,200 万人を超え、死亡者は79万人以上報告されています(米ジョンズ・ホプキンス大学集計:8月21日時点)。

本邦では、2020年8月21日現在の厚生労働省発表で、累積で5万8千名以上のPCR検査陽性者数を認め、1128名が死亡されております。2020年4月7日から5月6日まで出されていた緊急事態宣言以後、新規の発生数は収束傾向にありましたが、再び増加傾向をみとめ「第2波」が懸念されております。

新型コロナウイルス感染症は、感染力が強く、5-20%の感染者が重症化し集中治療室での加療を必要とします[1, 5]。現在、世界中から多くの新型コロナウイルス感染症の重症例の研究が報告されていますが、本邦からのデータはあまり多くないのが実情です。したがって、本邦の医療システムにおける新型コロナウイルス感染症の入院後の臨床経過や、治療効果を評価するためのデータは未だに少ない状態です。

今後の本邦での新型コロナウイルス感染症の治療戦略を検討するためには、本邦から以下のようなテーマをはじめ、多くの研究を行う必要があります。

①治療薬
②合併症対策薬
③重症呼吸不全のタイプ別治療戦略
④人工心肺装置(ECMO)の有用性
⑤各医療行為に対する費用対効果

新型コロナウイルス感染症に関して解析を行う本研究は、「公衆衛生上の危害の発生又は拡大」が差し迫り緊急に実施をする必要があり、今後の治療戦略や本邦の医療政策を検討する上で極めて重要です。

2:研究の目的

本研究では、本邦での新型コロナウイルス感染症症例のデータベースを構築し、未解明研究課題を早急に解決することを目的にしております。

3:研究の方法と特徴

本多施設共同後方視的観察研究では、①多忙を極める参加施設の臨床医によるデータ登録の負担軽減と②充実したサポート体制を構築し、多くの参加者から研究発表をしていただくことを目標にしております。

名称:J-RECOVER: Japanese multicenter REsearch  of COVID-19  by assEmbling Real-world data

① データ収集・登録

● 参加施設で、研究対象者リストを作成します。

対象:
2020年1月から2020年8月末までに参加施設を退院した、新型コロナウイルス感染症の確定診断症例。救命センターや集中治療室の入室の有無を問わず、施設に入院した全症例が対象となります。

● 一症例15-20項目程度の臨床情報を登録します。

人工呼吸器や人工心肺装置(ECMO)を使用した症例では、追加の項目があります。

臨床情報の項目数は、第一回目の申請課題公募後に決定しますが、手入力項目を最大限少なくすることを目指しております。

現在予定している、臨床情報項目は以下です。

全例対象:
・症状出現日(入院何日前)
・入院時:意識レベル(GCS)、血圧(収縮期・拡張期)、SOFA循環指標(選択式)、脈拍 (/min)、呼吸数 (/min)、体温 (℃)、酸素流量 (l/min)、PaO2 (mmHg)、SpO2 (%)
・入院中の合併症:脳梗塞(症候性)、肺血栓塞栓症、ICU入室日・退室日

人工呼吸器装着した症例で追加:
FiO2、PEEP、最高気道内圧、1回換気量、動脈血液ガス所見

ECMO使用症例で追加:
使用ディバイス、使用目的、カニュレーション部位、動脈血液ガス所見、人工呼吸器設定、回路の交換回数

● 研究代表者が開発したアプリケーション(DPCハッシュアプリ)を使用し、包括医療費支払い制度(DPC)データを用いて追加データを抽出・匿名化・連結を行います。

DPCファイルの様式1とEFファイルに存在する1000項目以上のデータを追加することが可能になります。DPCデータは、各施設が既に厚生労働省に提出するために作成したCSVファイルをコピーして使用でき、施設の事務員の追加作業負担はありません。

様式1及びEFファイルから抽出出来る項目例:
性別、年齢、入院中の主な診療目的、在院日数、転科の有無、入院経路、他院よりの紹介の有無、自院の外来からの入院、予定・救急医療入院、救急車による搬送の有無、退院先、退院時転帰、24時間以内の死亡の有無、主傷病名、入院の契機となった傷病名、医療資源を最も投入した傷病名、医療資源を2番目に投入した傷病名、入院時併存症名、手術名、現在の妊娠の有無、身長、体重、喫煙指数、入院時のJCS、退院時のJCS、入院時のADLスコア、退院時のADLスコア、肺炎の重症度分類、入院時の妊娠週数、救急医療管理加算、救命救急入院料、充実段階加算、高度医療体制加算、特定集中治療室管理料、呼吸ケアチーム加算、出来高医療費、CT撮影施行、観血的動脈圧使用、気管内挿管、大動脈バルーンパンピング法、経皮的心肺補助法、非開胸的心マッサージ施行、人工呼吸器使用、各種酸素療法施行、持続緩徐式血液濾過施行、各種カテコラミン(使用開始―終了日)、各種不整脈薬(使用開始―終了日)、各種鎮静薬(使用開始―終了日)、各種筋弛緩薬(使用開始―終了日)、各種鎮静薬(使用開始―終了日)、各種解熱鎮痛薬(使用開始―終了日)、各種抗生剤(使用開始―終了日)、各種抗ウイルス薬(使用開始―終了日)、各種抗凝固薬(使用開始―終了日)、各種ステロイド薬(使用開始―終了日)、各種血液製剤(使用開始―終了日)、各種輸血(使用開始―終了日)、等

● 血液検査データはデジタルデータもしくは印刷物として提出します。

研究代表施設にて、必要データの抽出、データ連結及びデータクリーニングを行います。つまり、血液データを手入力で登録する必要はありません。

② 研究運営委員

公募により各施設から申請されたリサーチクエッションの調整・助言をおこないます。

また、参加者にリサーチクエッション洗練のためのアドバイスや高度な解析が必要な場合のサポート等を行います。

運営委員

氏名  田上 隆
所属:日本医科大学武蔵小杉病院 救命救急科
役割分担:研究代表者・研究運営委員

氏名 山川 一馬
所属: 大阪医科大学付属病院 救急医療部
役割分担:研究運営委員

氏名 早川 峰司
所属: 北海道大学病院 救急科
役割分担:研究運営委員

氏名 遠藤 彰
所属: 東京医科歯科大学医学部付属病院 救命救急センター
役割分担:研究運営委員

氏名 小倉 崇以
所属: 済生会宇都宮病院 救急・集中治療科
役割分担:研究運営委員

氏名 平山 敦士
所属: 大阪大学医学系研究科 公衆衛生学教室
役割分担:研究運営委員

氏名 康永 秀生
所属: 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻 臨床疫学・経済学
役割分担:研究デザイン・統計解析助言・研究運営委員

4. 研究予定

 

研究参加について

研究にご参加いただける施設は、以下の申請書をメール添付でお送り下さい。

また、疑問・質問等もご連絡ください。

1.研究参加申請書
2.研究課題PECO申請用紙

質問・参加提出先:2020covidstudy@gmail.com
(日本医科大学武蔵小杉病院 田上隆)

A

A:代表施設(日本医科大学武蔵小杉病院)倫理委員会の承認

課題名:新型コロナウイルス感染症の病態理解と治療法検討のための多施設共同研究
受付番号: 561-2-26
承認日:2020年8月7日
審査結果通知書(561-2-26 田上 隆)

B

B:参加施設募集及び研究課題の第一次公募

各施設から、以下を2020年9月21日(月)までに提出していただきます。

①参加表明
②対象症例数
③研究課題(リサーチクエッション)申請(一次募集では各施設2課題まで)

リサーチクエッションを、DPCデータと上記の臨床データで行える研究を各施設、2つまで出してもらいます。

C

C:課題調整・項目決定

提出いただいた研究課題をとりまとめ、施設間で調整を行います。

原則、以下の採択ルールに則り行います。

  1. 研究課題の重なりがなく、必要追加項目もなければ、採択。
  2. 必要追加項目がある場合は、運営委員で協議を行います。
    研究全体をすすめる上で、各施設の負担にならなそうな範囲で行えそうであれば、採択。
  3. 提出研究課題が、他の施設からの課題と同一テーマであれば、調整作業を行います。
    3-1:申請者と委員で調整し、別のリサーチクエッションになり得るかを検討する。
    3-2: 3-1の調整が不可能のときは、以下を考慮して調整します。
    ①:既に採択されている課題の少ない施設を優先。初回での研究課題が2つ出ている場合は、もう一方の課題が採択されたかった施設の申請を優先。
    ②:登録予定症例数の多い施設を優先
    ③:①と②が同じ条件であった場合は、運営委員で協議し、決定。

なお、採択されなかった申請者は、採択されなかった課題にも共同研究者として論文著者に加わり、別の課題を再申請することが可能。

D

D:参加施設:倫理委員会申請

参加施設及び最終決定された項目にて、

①代表施設の倫理委員会に修正申請
②参加施設倫理委員会に申請

E

E:第二次課題公募

2020年10月下旬頃を予定

・項目追加は想定しない。
・課題数は、制限なし。
・同一テーマの課題の場合の採択調整方法は、第一次課題公募の時と同様。

①:既に採択されている課題の少ない施設を優先。
②:登録予定症例数の多い施設を優先
③:①と②が同じ条件であった場合は、運営委員で協議し、決定。

なお、採択されなかった申請者は、採択されなかった課題にも共同研究者として論文著者に加わることが可能。

F

F:以後の申請に関しては、申請順に採択。

項目追加は想定しない。

 

参考文献

1. Guan, W.J., et al., Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. N Engl J Med, 2020. 382(18): p. 1708-1720.
2. Zhou, F., et al., Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study. The Lancet, 2020. 395(10229): p. 1054-1062.
3. Furuse, Y., et al., Epidemiology of COVID-19 Outbreak in Japan, January-March 2020. Jpn J Infect Dis, 2020.
4. Grasselli, G., et al., Baseline Characteristics and Outcomes of 1591 Patients Infected With SARS-CoV-2 Admitted to ICUs of the Lombardy Region, Italy. JAMA, 2020.
5. Richardson, S., et al., Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area. JAMA, 2020.

2020年1月から2020年7月までに新型コロナウイルス感染症の治療を受けた患者さんへ

以下の文章を、日本医科大学武蔵小杉病院の公式ホームページで公開しております。
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